山形地方裁判所米沢支部 昭和39年(ワ)72号 判決 1966年3月25日
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は「被告は原告に対し別紙目録記載の不動産につき山形地方法務局米沢支局昭和三九年一月二七日受付等五七九号をもつてなした根抵当権設定登記の抹消登記手続をせよ。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、
一、原告所有の別紙目録記載の不動産(以下本件不動産という)に被告会社のため山形地方法務局米沢支局昭和三九年一月二七日受付第五七九号をもつて債権元本極度額一、五〇〇万円とする根抵当権(以下本件根抵当権という)の設定登記がある。
二、これは次の経緯でなされたものである。即ち、
(一) 原告は昭和二四年頃以降米沢市内の織物製造業者から織物製品を買受け、これを各地の問屋に販売する仲介卸商(買継商)を営んでいたが、昭和三九年一月二四日従来の取引銀行であつた殖産相互銀行から融資を拒否されたため、同月二五日支払期日となつていた約束手形合計二三〇万円の不渡を出すにいたつた。
(二) そこで原告は同日かねてからの取引先であり、且つ債権者である被告会社他数名の者の代表者らを自宅に招き、前記事情を説明し善後策について協議し協力を依頼した。
被告会社代衣者舟山甚作はこれを承諾し、原告に対し他から強制執行を受けた場合その不動産の保全が困難となるから、とりあえず被告会社に対し債権元本極度額一、五〇〇万円とする根抵当権を設定せよ、そうすれば原告所有の不動産等は完全に保全されるしその営業も責任をもつて再開継続させるようにする、よつて原告の実印と本件不動産に対する権利証を交付して貰いたい旨申出た。原告は右の言を信じて同人に実印及び本件不動産の権利証を交付した。
(三) これによつて被告会社は本件不動産に本件根抵当権の設定登記手続を為したのであるが、その登記がなされると遽かにその態度を変え、宮崎織物有限会社外一一名の原告に対する合計金九、二三四、八五六円の債務の譲渡を受け、これに被告会社自らの債権二、六〇八、九四五円を加えた合計一一、八四三、八〇一円全額の弁済を要求し、これに応じなければ本件根抵当権を実行する旨通知して来た。
(四) 右の事実からみれば、被告会社は真実原告のため本件不動産を保全する意思がないのにこれあるように原告を欺き、その旨原告を誤信させて本件根抵当権を設定させたものであるから、これは被告会社の詐欺による意思表示といわなければならない。よつて原告は本訴において本件根抵当権設定契約を取消す。
三、仮にこれが理由がないとしても、本件根抵当権は原告と被告会社間の織物並びに織物加工品の商取引及び手形取引によつて被告が原告に対して有する現在及び将来の債権の担保のため設定されたものであるところ、原告は被告会社にかかる債権を有せず、且つ本件根抵当権には期限の定めがないものであるから、本訴において本件根抵当権設定契約を解除する。
四、仮に被告会社主張のごとく本件根抵当権が昭和三九年一月二五日原告が手形不渡を出した当時米沢市内の債権者が原告に対して有する債権の合計を約一、五〇〇万円と見積り、その債権を担保するため設定されたものとするならば、確定債権を担保するため根抵当権を設定したものであるから、この点において本件根抵当権は無効である。
五、更に本件根抵当権には被担保債権を特定させるに足る当座貸越契約等の基本契約が存在しない。元来単に現在及び将来の一切の債務を担保する旨の根抵当権の設定契約は有効なものと解することができず、従つてかかる登記申請は受理されるべきではなかつた(昭和三〇年一二月二三日法務省民事局長民事甲第二、七四七号通達参照)のであるから、当座貸越契約等の基本契約のない本件根抵当権はこの点においても無効である。
六、以上のごとく本件根抵当権は本来無効であるか或は取消され、更には解除されたことによつてその効力を失つたものである。よつてその登記の抹消を求める。
証拠(省略)
被告会社訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、請求原因に対し
一、第一項記載の事実は認める。
二、第二項記載の事実中原告主張のごとく被告会社代表者舟山甚作が原告を欺き本件根抵当権を設定させたとの事実を否認する。本件根抵当権設定の経緯は次のとおりである。
(一) 原告は織物の買継商を営んでいたが、その決済は支払期日四、五ケ月先の為替手形に原告が引受け、その支払期日にその取引銀行である殖産相互銀行で支払う方法によつていた。
(二) ところが昭和三九年一月二四日にいたり原告は翌二五日支払期日の為替手形合計二二〇万円ないし二三〇万円の支払が困難となつたので、大口債権者である高橋吉三郎の長男栄一、鈴木忠喜及び被告会社代表者舟山甚作を原告方に招き、翌二五日支払期日の為替手形の処理方法について相談した。
その結果米沢市内債権者の原告に対する債権総額を一、〇〇〇万円と見積りその担保のため被告会社が代表して本件不動産に根抵当権を設定することとなり、被告会社代表者舟山甚作が本件不動産の権利証を預つた。そこで右舟山は直ちに司法書士に依頼して根抵当権設定契約書を作成させたが、翌二五日にいたり債権総額が一、五〇〇万円以上になることが判明したので根抵当権の極度額を一、五〇〇万円と訂正して該契約書を原告に示しこれに捺印を受けた。(原告が主張するごとく印鑑を預つてこれを使用したものではなく、印鑑はその後同日午後七時頃預つたものである。)そして翌日が日曜日であつたため、二七日にいたりその設定登記手続をしたものである。
(三) 昭和三九年一月二五日原告は為替手形の不渡を出したが、同日原告は被告会社ら米沢市内の大口債権者一〇名を招き不渡りを出した不始末をわび、債権者らのために一、五〇〇万円の根抵当権を設定することにしたことを告げてその了解を求めた。更に同月二七日には米沢市内の債権者全員約二七名を自宅に招き同様根抵当権を設定したことを告げて了解を求めた。
以上の次第であつて本件根抵当権設定は原告の主張するごとく詐欺によるものではない。
三、第三項記載の事実中本件根抵当権の被担保債権はその設定前のもののみでその後のものがないことは認めるが、その余の事実は否認する。
四、第四項記載の主張は争う。既存の確定債権を担保するため根抵当権を設定したとしても、法律上無効となるものではない。
五、第五項記載の主張は争う。
六、第六項は争う。
証拠(省略)
別紙
目録
米沢市立町二五九番
一、宅地 三六坪
同市同町二六〇の一
一、宅地 一八坪
同市同町四、二七三番
一、宅地 八五坪五合
同市同町四、二七三番の一
一、宅地 二坪九合七勺
同市同町四、二七四番
一、宅地 一五四坪
同市同町四、二七四番の一
一、宅地 二坪九合七勺
同市同町四、二七五番の一
一、宅地 三坪二合四勺
同市同町四、二七三番、四、二七四番
家属番号第一六六番
一、木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建 五三坪
一、土蔵造亜鉛メツキ鋼板葺二階建店舗
建坪 一階一八坪 二階一五坪
一、土蔵造亜鉛鋼板葺二階建倉庫
建坪 一階一二坪 二階一二坪
一、木造亜鉛メツキ鋼板葺二階建物置
建坪 一階八坪 二階八坪
一、木蔵亜鉛メツキ鋼板葺平家建店舗
建坪 八坪
一、 木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建納屋
建坪 四坪